2007年8月 大井川源流〜北岳縦走 個人山行報告

8月11日(土) 天候:

(伊那市タクシー会社仮眠)=大曲−大黒沢出合−権右衛門山−塩見岳−雪投沢下降点(泊)


遅れてきた今年の夏。その分暑さも例年を上回るようだ。新宿駅西口ヨドバシカメラ前にある高速バスターミナルに集合、今回の山行メンバー6名を載せたバスは20:30出発。
目的地は南アルプスである。伊那市に到着したのが深夜12時。迎えの白川タクシーにてタクシー会社に向かう。タクシー会社の仮眠所を借りて仮眠。翌朝4時起床、近くのコンビニで買い物後出発。三峰川林道の大曲ゲートを目指す。約1時間走行後の5:40ゲート到着。ゲート前にて朝食を済ませ、長い山行をスタートさせた。
林道歩きは約1時間、大黒沢出合に到着、しかし肝心の登山道入り口が大黒沢出合部の氾濫により崩落しており、復旧治山工事中で全く分からない。半時も探し回って漸く村上さんが登山道を発見、塩見新道の長い登りにつけた。鬱蒼とした針葉樹林帯の急登をひたすら登る。3泊4日用の重いザックが肩に食い込む。尾根にとりついてから傾斜は多少緩くなるものの決して楽ではない。7時間近い登りの末、漸く塩見小屋に着く。
小屋で乾杯用ビールを買い込んで再度今日の天場に向けて重いザックを持ち上げた。塩見岳西峰・東峰まで標高差は約300m。なんとつらい登りであったものか。東峰から仙塩尾根を見下ろすと稜線沿いの大井川側に下る斜面の途中、ハイマツ帯が切れて平坦地が見えている。単独先行者のツェルトの一張りが見える。そこが今夜の幕営地だ。本日初めての下りである。天場到着17時少し前。
先行者ツェルトより更に200m程下った処で適地を見つけた。水場は其処より約10分雪投沢沿いに下って発見。水確保隊とテント設営に別れ食事準備。バテた小生はテント設営に廻った。夕食はそれぞれが持ち寄って作った自慢の夕食をそれぞれ皆で賞味した。今回の夕餉は全てこのような方式である。これだとそれぞれの人のバラエティー豊かな食味や工夫がが味わえる。折角の大自然、外で食事と意気込んだが、夜が更けるにつれ寒いことこの上ない。見上げると満点の星。天の川もこれほどハッキリと見たのは何年前のことか。最後はテントに入って歓談、今日の長い一日を締めくくったが、寒くてとうとうビールには誰も手が出なかった。


8月12日(日) 天候:

雪投沢下降点天場−雪投沢−大井川出合−魚止滝−天場(泊)


本日も雲一つ無い晴天を予感させる夜明けであった。4時起床。朝食、テント撤収等々で思いの外時間が掛かる。6時過ぎ天場をスタート。大井川合流点を目指して、雪投沢を下った。最初は登山靴で行けるところまで行って、途中より沢靴に履き替える。小生はフェルト付き沢足袋+ワラジ。ウルフ氏はネオプレーンのサワタビ+ワラジ。岩の震動が直に伝わり長時間の使用だと足が痛む模様。他のメンバーは沢靴であった。
久しぶりの沢である。沢で骨折経験のある小生にとって、ここで怪我をしたらもう取り返しが着かない。多少緊張する。しかし、岩は大きく、乾いているのも多く、滑ることも無く、快調に下れた。9:30、大井川に合流。ここから源頭目指して遡行開始。水は冷たく、飲み放題。雪投沢を別れるにあたり最後の雪投沢の清水をペットボトルに入れた。平坦地は川床や河原を、ゴルジュ風のところは脇の踏み跡をたどって登っていく。白根沢を右に分け、更に滝の沢を越えていよいよ大井川の核心部に進む。
魚止めの滝の上部に開けた桃源郷のような幕営適地があるというのが猪俣リーダーの情報であった。もし辿り着かなければそれはそれで良いという寛大なお言葉。そう言われれば頑張って辿り着かないわけには行かぬ。しかし脇の踏み後を辿ると魚止めの滝は早かった。滝は高巻いて進んだ。上林さん等の偵察でかなり快適な幕営地を確保。川脇の小高い草地である(15:30着)。早速テント設営と、河原に焚き火場セット。薪集めも行って今夜に備えた。
今夜も全員が作った各自のメニューをそれぞれが食し、それぞれの工夫と味を楽しんだ。昨日のビールは川床に冷やし、今宵も煌めく満点の星の下、焚き火を眺めて二日目の宴会が始まった。恐らく都会では蒸し風呂のような暑さに辟易しているに違いない。ビールの冷たさと、南アルプスの夜の冷気の中で、焚き火の暖かさと誰もいない静けさに浸って、サラサラと流れる沢音を聞きながら、漆黒の闇にとけ込んでいく風景と星を眺めているとこれほどの贅沢は無いだろうという気になってくる。21:00就寝。

これと酒があれば何もいらない



8月13日(月) 天候:

天場−農鳥沢出合−間の岳下トラバース道−農鳥岳分岐−間の岳−中白根山−北岳山荘天場(泊)


今日も4:00起床。さて、今日はどこまで行くか。残念ながら仙塩尾根を通って仙丈ヶ岳までは無理。先ずは間ノ岳直下を通る三国平から農鳥小屋へのトラバース道までを目指し、跡は農鳥小屋までとするか、北岳を目指すか。農鳥小屋までなら今日は大夫時間が余る。昨日に引き続き沢支度。濡れた沢足袋に足を通す。天候は高曇り。焚き火跡を綺麗に始末しスタート(6:30)。小雨?時折天空からの滴を感じたが青空も覗ける。やがていつもの好天に恵まれる。
超人上林さんが風邪を引いたようで、体調が優れないとのこと。それでも小生の倍は歩みが早い。快調に沢を遡行。巻きの踏み後も進む。いよいよ大井川も源頭に近い。上林さんの体調を考慮して三国沢と農鳥沢の分岐で2時間弱も大休止を取った。沢で日光浴をしながらの午睡に疲れが取れる。さあここからは本流の三国沢を詰める。程なく本流が大きく左直角に曲がるコーナーの左岸川幅一杯に雪渓が残っているところに出た。さずが南アルプスだ。感激してそれぞれに写真を撮った。
水が細くなってきて源頭間近。水を補給して見上げると間の岳方面の稜線が行く手にそびえている。最後の水補給点でこの上なく甘露な南アルプスの天然水を採取。ついでに沢靴を登山靴に履き替えた。水の無くなったガレを登るともうそこは下界に通じる一般道(12:30)。目の前には三峰岳から間の岳、農鳥岳につながる稜線が夏の真っ青な空の下に雄大に広がっている。しかし我々の辿った三国平と農鳥間のトラバース道は間の岳をカットしてしまう故か人の気配はない。
農鳥岳に向かい、農鳥岳・間の岳間の登山道に合流(13:40)、一服の後、間の岳に向かう。今日の幕営地は北岳山荘天場で決定。間の岳はさすがにでかい、超人上林、鉄人猪俣、そしてミラクルパワーのウルフ・希ご夫妻ははるか彼方に消えてしまった。非力な小生は山行を通じて付き合ってくれた村上さんとともに歩く。間の岳到着(15:20)。更に北岳に向かった。途中中白根岳もトラバースせず、まじめに山頂をクリアーした。中白根岳を下った岩頭でブロッケン現象に遭遇。前方の薄いガスのカーテンに二人の立ち姿が写っている。さあ、あと一踏ん張り。17:00には着くだろうという予定はなんとしてもキープしたいとの気持ちで、16:50到着。
早速テント設営。着いたときには既に幕営申し込みとビール買い出しで居なかった上林さん達も戻ってきた。今日の夕餉はテント内で行おうと言うこととなり、テント二張り(6人用、2〜3人用)の内6人用に全員集まり、最後の夜を楽しんだ。雲海に浮かぶ富士山が赤く染まる。カメラのシャッターを切る。西面の岩肌を大きく見せている我が国第二の高峰北岳もだんだんと朱に染まってくる。残念ながら、宴会に気を取られ、北岳が落陽に輝く最高の一瞬は逃してしまった。


8月14日(火) 天候:

天場−北岳−八本場のコル−二俣−広河原=芦安=甲府

最後の一日も快晴である。4時起床。雲海を突き抜けて富士山が東南に有る。朝日が北岳と富士山の真ん中りから辺りを赤く染め始めている。多くの人がカメラ片手に日の出を待っている。今日は北岳を登って、八本場のコル経由広河原まで。約5時間の行程である。6:45出発。北岳登頂は八本場のコルへの最初の分岐でザックをデポ、空身で登る。
山頂は(8:00。これまた超人連合は先着済み)数十人の人たちが大展望を満喫している。ウルフはこんなに展望に恵まれるなんて滅多にないよ!と大感激。前回ご夫婦での登頂時はガスでまるで展望が効かなかったらしい。正に360°遮るものはない。そりゃそうだ、此処より高いのは富士山だけ。それも遙か東方にある。眼前には仙丈ヶ岳から甲斐駒ヶ岳。鳳凰三山。オベリスクもハッキリと見える。其の後方に八ヶ岳。振り返って塩見岳。稜線が延々と続いている。あんなところから来たのか!人間の足とはなんとすばらしいもんか!皆さん一様に同感。さらに其の奥に荒川岳、赤石岳。そして、西側に中央アルプス、御嶽山、槍ヶ岳も尖峰を見せている。
約1時間至福の時に酔いしれて、そろそろ下山開始した。八本場コル手前の南斜面はお花畑。シナノキンバイ、ハクサンフウロウ、ウスユキソウ、イブキトラノオ、グンナイフウロウ、タカネナデシコ、トリカブト、チシマギキョウ等々。八本場のコルを通過。いくつものはしごが続く。慎重に下り、左からのトラバース道と二俣にて合流、大樺沢沿いに下る。やがて広河原山荘が樹林間に見えた。広河原に到着(13:05)。
13:25のバスがあると言うことだったが、乗り合いタクシーにて(@1100円)芦安の金山沢温泉まで送ってもらい一浴。山行の垢を落とした。同じタクシーに再度迎えに来てもらい甲府まで(@1000円)。駅ビル内の居酒屋で反省会を行い、山行を締めくくった。それにしても南アルプスのど真ん中でのテント泊と誰もいない静寂の中での焚き火は今も脳裏に焼き付いて離れない。猛暑続きの日本列島の中であんなにも至福の時を過ごした人はそんなには居ないだろう。全員に感謝。

(野村健一記)


北岳山頂から 言わずと知れた富士山