2008年2月 吾妻高湯〜吾妻小屋〜土湯 縦走 会山行報告(ドラマチック編)

2月22日(金)

福島市内の運動公園に午前1時頃到着し、テントを張って早速 前夜祭。トイレも有り前夜泊に最適だ。


2月23日(土) 天候:曇りのち晴れのち吹雪

高湯(9:30)〜慶応山荘分岐(13:00)〜一切経山コル(16:20)〜吾妻小屋(18:40)

朝食後ジャンボタクシーを予約してあったタクシー会社に移動し、仕度をして高湯温泉の登山口へ移動して出発。しっかりついたトレースをたどって登っていく。気温は高く 天候も如々に晴れて、この後の悪天を誰が予想できようか。寝不足と何の緊張感も無い登りで猛烈な睡魔に襲われ、途中の休憩で10分程 雪の上で爆睡してしまった。
慶応小屋を過ぎてようやく本格的な登りに入ったところで急に雪が降り出して風も出てきた。五色沼を見下ろす大岩のあたりでは 風がかなり強く、視界も急速に悪くなり気温も急下がる。五色沼を回り込んだ後の樹林帯で、フリースの中間着を着て、グローブを厚手のものに替える。一切経山のコルまでの登りは部分的に深いラッセル。コルの手前から上林が先頭で進むが強風で視界もほとんどなくなってしまった。

強風で雪がほとんど飛ばされたガタガタのコルを板を外して少し歩き、シールを着けたまま滑走開始。視界は完全に無くなり、足元の自分の板がなんとか見えるほど。斜度も全く判らず方向感覚も無いのにスキーは最大傾斜に向かって 勝手に落ちていく。しばらくして後ろから 左(東)に行き過ぎだという声がかかり、右(西側)に方向転換するが、少ししてまた右に行き過ぎだとの声がかかる。大した下りではないのに完全にルートを見失っていた。
西側からの強烈な吹雪でゴーグルの隙間から中に雪が入り込み、レンズが全て凍って使えなくなったためゴーグルを外して裸眼で行動するが、斜度も判らない斜面はガタガタで、スキーのトップが潅木に刺さっては転倒する。視界は2〜3メートルか。上林が転倒する度に後続のメンバーは先頭が突然見えなくなって大変だったそうだ。

ほとんど進めないまま時間ばかりが経過して「これはかなりヤバイ」と思い始めた時、ガスが薄くなり一瞬地形の全貌が見渡せた。ともかく酸ガ平のコルに下りて沢沿いに降りれば浄土平に降りられると確信してじりじり下る。突然 斜度が無くなり酸ガ平に降りた事が判ったが、時間的に吾妻小屋に到着するのは無理だろうと判断し、半径100m以内にあるはずの酸ガ平の避難小屋に逃げ込む事にするが、強烈な西からの吹雪に逆らって行動しなくてはならない。
歩きはじめたとたん、中川さんに「こちらに向かって行くのは無理です」と断言され「確かにそうだな」と思い直し、浄土平に向かって方向転換する。結果的にこの判断は正解で、最終的に吾妻小屋にたどり着いて快適な夜を過ごせたのは中川さんのお陰と言えるかもしれない。全員を集め「沢沿いの登山道に沿って下るから ともかくついて来てくれ」と伝えて下り始める。

すでにかなり暗くなっており、日没までに行ける所まで行かなければならないと かなりあせるが人数も多いため後続のメンバーが遅れ、数メートル進んではホイッスルの音で停止をよぎなくされる。沢沿いも雪が少なく突然足元にぽっかり深さ2m程度の落ち込みが現れたりして、必死に後続を誘導する。沢を少しずつ下るにつれて風が収まって来た。
完全に日没になる前に全員でヘッドランプを装着して小休止。ヘッドランプを点けてしばらく進むと突然開けた地形になり、浄土平に出た事が判る。ここまで来てようやく吾妻小屋にたどり着ける希望が湧いてきた。かろうじて見える登山道の標識にしたがって吾妻小屋方面に進むが完全な暗闇となり、小屋の位置が全く判らない。
ルートを間違えて沢に下りかけたりしたが、GPSをたよりに樹林帯をしばらく進んだところで「あった!」との声。よく見るとヘッドランプの明かりの中にうっすらと小屋のシルエットが浮かんでいた。少し下って回り込むと吾妻小屋の入り口があった。ここでN館嬢が「シールを片方無くした」。小屋の手前で下る途中で気がついたとの事。この暗闇の中で、後から探して見つけられる可能性は無い。
ともかく小屋の入り口の前の雪を ぶら下がっていたスコップで掻き出して小屋に入った。精根尽き果てて小屋の広間の畳の上に倒れこみ、10分ほどゼイゼイと荒い呼吸が止まらなかった。

食事班とストーブ点火班に別れて作業し、かなり苦労してストーブに火が灯り小屋が暖かくなり、夕食の準備もできて 遅くなったが豪勢な夕食が始まった。食事後、ストーブを囲んで今日のハードな行程を振り返って話しがはずんだが、正直言って明日の事は考えたくない。現実逃避のために酒をあおる。12時過ぎに消灯。


2月24日(日) 天候:雪のち晴れ

吾妻小屋(9:00)〜鳥小平(10:00)〜高山(11:20〜11:50) 林道(15:00)〜土湯温泉(16:40)

6時頃起床。外は強風がたけり狂っており、とても行動できる気がしない。水を作るための雪を取りに小屋の入り口に出ただけで、全身真白になってしまった。吹き込んだ雪で小屋の入り口の前に一晩で高さ1m程の雪の丘が出来ていて驚いた。朝食後 この日の行動について話し合い、ともかく予定通りのルートで行ける所まで行ってみようという事になったが、GPSにルートを入れたり、非常時の連絡先を携帯電話に入れたりして出発が遅れ、9時出発となってしまった。

歩き出したとたん、N館嬢のスキーの紐(細引きを巻いてシールの替わりとした)がほどけて立ち往生。「ああ これで今日は下山できない」と一瞬絶望的な気分になった。板を履いたまま直そうとする姿を見て 藤澤さんが「板を脱いで直した方がいい」とアドバイスしたが そのままもたもたしているので 無理やり板を外させ、紐を直して板のトップとテールの部分をゴムのバンドできつく巻いて紐がほどけないようにした。Black Diamond製のこのゴムバンドは強力で最後まで外れる事は無く、細引きがシールの役割を果たした。

朝から膝の調子が悪いので先頭をヴォルフに頼み、強風の中を吾妻スカイラインに沿って歩く。風は強いが視界は良く 行動可能な範囲だ。鳥子平から高山への登りに入る。中川さんから「時間が遅すぎて下山できる気がしない。怖い」と言われたが気の利いた事を何も答えてあげられず申しわけない事をした。「仲間を信じて進もう」ぐらい言いえたら良かったのにと後で悔やむ。
高山の頂上直下までは風の影響をそれ程受けずに登れたが、さすがに山頂は強風が吹き抜けていた。山頂にあるマイクロウェーブの反射板に風が当たって、大和市上空を飛ぶ米軍のジェット戦闘機のような凄まじい音をたてている。山頂を越えて土湯側の樹林帯にに降りると うそのように風の影響を受けなくなり大休止。皆 ほっとした顔になる。

ここからの滑走の先頭を引き受け滑り出す。樹林が濃く地形がほとんど判らない。コンパス、高度計、GPSをフルに活用して予定通り土湯に下りる顕著な尾根に出る事ができた。ツアーコースの標識も見つかり一安心。ここから先頭をヴォルフに頼み、長い長い下山路を下る。左膝の状態がかなり悪く 左ターンのたびに無意識に膝をかばって体が内傾するためバランスが悪い。皆 悪雪の中を華麗に滑って行くが、最後尾を 人知れず ぼてぼて転びながらついて行く。モナカ雪の所も多く、快適に滑れる所はほとんどなかった。

最後 林道からのショートカットを下り 土湯温泉に着いたのは薄暗くなり始めた16時40分だった。温泉に入って汗を流したが、ウェアを脱いだら左膝が丸太のように腫れあがっていて驚いた。タクシーに乗って福島に戻り、長く厳しい縦走を終えた。
遭難と紙一重の厳しい山行だったが、皆で力を合わせて乗り切った充実した山行だった。

(上林 記)


GPSトラック図