2008年3月 2008年3月 白馬岳・栂海新道・初雪山縦走 会山行報告

3月20日(木)

前泊した栂池の宿の朝は雨模様だったが10時50分ゴンドラに乗り最初の目的地、白馬大池に向かった。途中で雨は上がったものの白馬乗鞍の斜面はホワイトアウト。白馬大池についたがどのあたりだろうか。16時30分適当にテン場を決め北側にブロックを積んでテントを張った。猪俣さんの手料理にお酒も進んで20時30分就寝。しかし天候は回復するものも強い風が夜中中吹き付ける。


3月21日(金)

4時に起床するも風が強く7時までうとうと時間を過ごしながら頭の中は今後の行程を考える。朝食後テントを撤収、多少重い足取りで10時15分出発するが船越の頭に向かうと強風で前に進めない。あきらめて元のテン場に戻りブロックを補強して停滞とするが2日目で停滞は先が思いやられる。午後白馬岳にピストンするらしい7人のパーティが登ってきて隣に設営する。19時30分就寝。風も収まり月明かりが美しく明日に期待が持てる。


3月22日(土)

3時起床。5時30分晴天微風の中を出発する。隣のパーティも出発追い越される。こちらは全装備を担いでいるため足取りは重いが晴天のせいか気分は軽い。小蓮華を通過し三国境で休みを取っていると隣のパーティが山頂から下ってきたので軽く挨拶を交わして分かれる。ここからスキーも担ぎになりアイゼンで登る。
急斜面での重荷は応えるが11時30分白馬岳山頂に立てる。最初の目的達成。しばらくしてスキーをつけ柳又カールの滑りを楽しむ。3月と言うのにシュカブラはあまり無くすこぶる滑りやすく快適。カールの底まで一気に滑りシールを付けて鉢ガ岳のコルに向かって登る。12時30分コルに到着。ここはいつも強風だ。
コルから雪倉の避難小屋までシールをはずして長いトラバース。避難小屋からシールになり雪倉岳を目指すが風が強くなってくる。15時28分雪倉岳到着。当初は雪倉北面を下降して白高地沢源頭でテントを張るつもりであったが、遅れをとりもどすためにそのまま稜線上を下るがところどころ硬い斜面が広がり滑りにくい。赤男山の手前まで来ると壁に先を阻まれる。シラビソの低木の間に入って風をよけ休みをとっている間に空身になってコースを探しに行くと西面に下れそうな斜面を見つける。メンバーにも疲れがでてきたので横滑りを交えて慎重に降り17時30分赤男山の南のコルに風をよけてテントを張る。長い1日。午後は風も強くなり2人が着脱中にシールのシートを飛ばされてしまった。 穏やかな夜を向かえ5人では狭いテントのそばに予備に持ってきたツエルトを張って寝ることにする。1人寝は多少寒いがヴォルフが貸してくれたデラックスな全身マットのおかげでゆったり寝られる。

3月23日(日)

目が覚めると予想に反し高曇りながら天候は良さそうだ。6時45分出発、本日も行程は長いが明日は崩れる予報なので初雪山山頂辺りまで距離を伸ばしたい。そうすれば崩れても何とか下山できるが昨日は調子を落としたメンバーもでたためゆっくりと朝日岳の斜面に取り付く。
以前この斜面を下ったときはすごいシュカブラだったが今年は柔らかな斜面が続き登りやすい。9時35分朝日岳山頂。遠くに栂海新道の稜線と初雪山が見えてくる。
鞍部からシールを付け長栂山に。長栂山からはおまたせの長い長いくだりが始まる。稜線は左右に蛇行するがコースを選んで黒岩山まで滑り込んだ。12時35分ここからシールを付けて上り下りが続く稜線を進む。14時10分さわがに山到着。目の前に北又谷を挟んで初雪山がそびえる、が雪が少なくところどころ全層雪崩で黒い地肌がむき出しの部分が目に入る。なんとなく気分が進まないが北又谷に本日最後の滑りにむかう。
案の定、谷底に着くとデブリだらけの荒れた状態になっていた。ここから初雪山に登る南東の尾根に取り付くには谷底を1キロほど下らなければならない。今年の小雪のせいか以前通過したときのイメージとは大違いだ。ゴルジュの中は転々と穴が開き流れが見える。最初は穴の横に残った雪壁を滑って通過していたが穴がゴルジュいっぱいに広がったところもでてきてデブリの壁をつぼ足で高巻きロープを使って沢底に降りるようになってしまった。登路に選んだ尾根までもう少しのところでゴルジュの通過がかなり難しくなったのであきらめ尾根につながる急斜面をつぼ足で150mほど登ることにする。しかし谷底をここまでこられたのはラッキー。
重荷に増してステップがもぐるので体力を消耗するが、途中からヴォルフが変わって稜線がゆるやかになる部分まで登ってくれた。そこからシールに切り替え進むが18時30分足が重く前進をやめてテントを張る。本日も長い1日非常にのどが渇いた。夜雨が降り出す。今回軽量化のために冬仕様テントでフライを持ってこなかったので予備に持ってきたツエルトを広げてフライ代わりにして雨をしのぐ。

3月24日(月)

5時起床。残った非常食で雑炊を作り朝食とする。雨脚が弱くなった8時出発。ところどころ細く急になった稜線をシールをきかして登るが雨が雪に変わり視界も悪くなる。10時5分風雪に変わった山頂のポールに到着。川久保さんがその中でも記念写真を撮ってくれる。
最後のピーク登頂を楽しむ暇も無く滑降に入り適当に見当を付け急斜面のふちを下り樹林帯に逃げ込むように滑り降りた。11時やっとツエルトをかぶって休みを取る。出発時気温が高かったのでみんな軽装にしたのがたたり体が冷え切ってしまったがテルモスのお湯を飲み衣服を着けるとやっと暖かさが戻ってきた。その後眼下に境川が見えてくると雪も少なくなりつぼ足に切り替えて下るが最後の斜面が急になり雪の残ったルンゼを見つけて下る。メンバーのスリップも起きたが14時10分全員無事登山道に出ることが出来た。
スリップ時に無くなったスキーを探すのに手間取るが無事回収。15時15分下山予定地の大平(たいら)までの道を滑らせ、担ぎ歩き16時40分に到着。終了の喜びを分かち合う。それから近くの老夫婦の民家にタクシーを呼ぶための電話をかりるが、上がってゆかないかの勧めも濡れねずみで辞退、みかんをいただき暖かな気分になった。
白馬から日本海までの5日間、ひさびさにハードな山行になりましたがチームワークの取れたメンバーのおかげで終わってみれば全員満足するすばらしいスキーツアーとなりました。

-山行感想-

猪俣
前々から栂海新道〜初雪山のコースに一度は行ってみたいと思っていた。雪倉岳も朝日岳も冬季は行ってないし、北アルプスを3月に縦走した経験などまったくなかった。スキーを担いでアイゼン歩行が多々あることが予想され、テント泊装備の上にスキー一式がプラスされると分かっていた。私の場合、担げる重量は高が知れている。行きたい一心で、いろいろなものを削って軽量化をはかるべく考えてはみたが、やはりスキーを再検討すべきと、ツアー直前の3月に入ってから急遽買い換えることにした。時間がないので、ネットで調べて、白馬の店で購入することになった。たまたま、ランドネ山行で白馬行きが3週続いたので、結果的には東京で買うよりかえって便利だった。当初、板のみのつもりだったのだが、ビンディングのTLTにはブーツがそれ用でなければならなくて、結果ブーツまで新調することになって思いがけずひどく痛い出費となる。けれど、終わってみて、やはり今回はあのスキーの軽さがなければ私はとても行けなかったと実感だ。悲しいかな、体力がなくなると、お金でカバーしなくちゃならないというわけである。
前泊の栂池高原ゴンドラに隣接の民宿「きざみだ」はご主人が山屋で親切、朝食もなかなかおいしく良心的でお勧めだ。快晴なのに強風で停滞を余儀なくされたことにも驚いた。風は本当に怖い。白馬岳へのアイゼン歩行も急斜面のカリカリで緊張した。柳又沢源頭や朝日岳からの滑りは予想外にとってもgoodで大満足。北アルプスを滑るとはこうゆうことかとかなり素敵な初体験だった。快晴のパノラマはもちろん文句なしの素晴らしさで「銀色のシーズン」なんかホント目じゃない(笑) サワガニ山から下降した北又沢はゴルジェが続き、さすがと感動する。沢登りでは私のような低レベルじゃとてもこれないグレードのところなのだ。予想に反して沢床には水が出てしまっていて、初雪山への取り付きまでの通過は困難を極め時間がかかった。水が流れているのだからおいしい水が飲めると期待したが、とても危険で近づくこともできない。進退窮まって何度も高まいたが結局途中の急斜面から尾根に上がった。危険地帯のルートどりはさすが村上さんと尊敬だ。日暮と追いかけっこではあったがヴォルフの強力ラッセルパワーのお陰で4泊目も安全なテン場まで行きつけた。その夜は予備日なのに、けっこうちゃんとした食事がとれて満腹満足。そこまでは良かったのだが、最終日の雨は、予想どおりとはいえかなり厳しかった。ずぶ濡れで頂上付近の風雪にさらされ、防寒着を着る余裕もないまま滑って、危険を感じるほど身体の芯から冷えきってしまった。かなり下ったところでツエルトを被りセーターを着てようやく生気をとりもどしたのだが、ツエルトの有難さを再認識だ。林道近くになると雪がなくなり、スキーを担いで降りることになった。最後は沢に落ちそうな斜度なので後ろ向きになり、ブーツを蹴こみピック付きストックを差し込みながら一歩一歩慎重に降りて、林道に降り立ち、これで無事帰れると心底安堵した。でも、そこから滑って下れるはずの林道に雪がなく、延々歩くはめになり大平へは遠かった。でも、朝日町営温泉「らくち〜の」と打ち上げのビールの味は文句なく最高で、この充実感達成感がたまらない(笑) これだからやめられない!忘れられない縦走の1つになりました。

川久保
ちょっと山に登った経験のある方ならどなたでもご承知の通り、「山でバテない秘訣」はその山行の参加者の中に自分より弱い人が一人でもいる事である。ところが今回の参加者を見ると登りの体力も下りのスキー技術も私より劣った人がいず、「これは大変な山行になるだろうな」と嫌な予感がしていた。要所要所で先頭を行き見事にリードされる村上さんやラッセル大好き人間のウルフさんの抜群の体力は別格としても、毎週山に登っておられる猪俣さん、長距離の海洋遠泳大会に出場されている大西さんの女性陣の体力にも差をつけられた。
本来なら体力をあまり必要としないスキーでの下りにも問題があった。今シーズンは青木湖のKC小屋に籠もって村上師匠の丁寧な指導を受け、優雅な北海道スキーツアーで井上・田原両先生の指導を受けたにも関わらず一向に上達しないスキーの腕では完全に皆のお荷物になってしまった。白馬岳から柳又谷の源頭、鉢ヶ岳を左に見ながらのトラバース、朝日岳から栂海新道の長い緩やかな下りは雪質が良かったので数回転びながらも何とか皆について行けたが最終日の初雪山からの下りは悲惨であった。早朝からテントにはポツポツと雨の音がしていた。天気予報ではその日の午前は雨という予報であったが気温が高そうなので下半身はタイツの上から直接スキーズボンを履き、上半身は長袖のアンダーシャツの上に直接アノラックを着て登っていたら頂上に近づくにつれて気温は下がり風は強くなって来た。頂上からの下りは雪が雨に溶けてグサグサとなり何回もこけて、雨で体が湿っている上に柔らかい雪面上を何回も転がって益々体中が湿ってしまった。先頭を村上さんがリードし、女性陣はスイスイと滑って行く。私は何回も転びすっかり消耗してしまったが、親鳥が雛鳥を見守るように何時も私の後ろにピッタリと付いて私をサポートしてくれたウルフさんのお陰で何とか気持ちを奮い立たせながら皆について行った。ようやく林の中まで下りて来て風も弱くなったが上半身に震えが来たので猪俣さんがツェルトを出してくれ、皆でかぶって休憩となった。ここで服を着て暖かい飲み物を取ってようやく落ち着いた。申し訳ない事だが皆に僕の荷物を少しずつ持ってもらってだいぶん軽くなったおかげでそこからはあまり転ばず滑る事が出来た。
今度の山行も村上リーダーの見事なリーダーシップを見せてもらった。出発日に栂池の民宿で悠々と雨が止むのを待つ余裕、雪倉岳と朝日岳の間の最低鞍部に下りる時にあと高度差400mくらいの地点で急斜面となり、私にその斜面を下れる体力も技術も無いと分かった時に、空身で左右の景色を見て回り、左方にベストの斜面を見つけて来た観察力、北又谷の下降の際の所々に開いている穴を避け、大きな雪のブロックが谷を塞いでいた時のルートファインディング、初雪山から境川に下りる最後の急傾斜でのツボ足下降というルート選択、どれを取っても村上リーダーの判断は的確であった。どんなに努力してもとても彼のようなリードをする事は出来ないが、何とか彼の足下くらいまでには近づきたいものである。
この長大な山行のゴール地点である大平(たいら)はまさに日本の現在の山村風景の象徴であった。小さな水力発電所、ガラスが割れ放題の今や誰も学んでいないボロボロの校舎、川沿いの数軒の古い農家と丹精を込めて世話をされている小さな畑等々。タクシーを呼ぶために電話を借りに行ったお宅にはおじいさんとおばあさんが住んでいて電話代を払おうとすると逆に大きなミカンを頂いた。「限界集落」という情け容赦の無い形容詞の付いた部落で暮らしている人々の幸せを祈らずにはいられなかった。

大西(し)
栂海新道・・・夏道としては聞いたことがあったが、それをスキーで行けると知ったのが3年前、蓮華温泉で村上さんと川久保さんに知り合った時。それから、いつか行ってみたいと思っていたルートだったが、こんなに早く実現できたのは感激でした。5日間も雪山にこもったのも初めてだったし、内容盛りだくさんの山行でした。
初日の雨、ホワイトアウト、2日目にして強風のため停滞となった時は、どうなることやらと思った。強風のために動けないが、稜線でなければそれほど風も強くないだろうから、テント場であった白馬大池から蓮華温泉に下って雪倉岳に登り返してはと提案してみたが、リーダーは稜線コースを行かなければおもしろくない、と却下された。しかし3日目にすばらしい天気の中、稜線を歩いた時は、その理由がわかった気がした。歩きだけでなく、3日目の柳又谷の滑り、4日目の栂海新道の緩やかな滑りなど、滑走部分もすばらしかった。5日目は辛い雨となってしまったが、予備日も使い果たしてしまっているし、あとは下るだけなので強行突破であった。
個人的には3日目に少々風邪っぽく(または停滞して体がなまったか?)、いつになく登りで息が切れたが、とにかくこの長い1日を歩き通せてよかったと思っている。また、山の技術の未熟さを感じたところも多々あり、特に壺足で歩かなければならないような所は、怖いと思うとすぐにへっぴり腰になる。自分としては、これは今後の大きな課題である。しかしチームの皆様の助けがあり、この長い道中を歩き、滑り通すことができました。感謝!充実した、とても達成感のある、思い出深い山行でした。

ランゲ大西 ヴォルフ
今回のツアーはかなりシーズンハイライトでした。 長い五日間には天気も強風、晴れ、雨があり、急な斜面を上ったり下ったり、アイゼン・ピッケル・ロー プ・スキーを使って進んだり、滑落事件があったり・・・・そして五日後のお風呂も今シーズンで一番気持ち良かったかも・・・・。 すばらしく充実した、中身の濃い山行だったという事以外に、僕が今回の山行に思い入れがあった理由はもう一つあります。3年前に蓮華温泉で初めて村上さんと川久保さんと知り合いになりました。お二人はもう覚えてないかもしれませんが、その時に今回のルートの話しが出て、説明していただきました。その思い出があり、ランドネに入会して実際にあのコースを村上さん、川久保さん、猪俣さんと行けた事はとても嬉しいです。
最後に、今回は沢が割れていたり、初雪山の尾根までが予定通りのルートを行けなかったりと、予想外の場面に遭遇もしましたが、リーダーのルート選びは非常に勉強になりました。