2010年3月 破間川源流域 山行報告

3月13日(土) 五味沢〜下黒姫沢左岸尾根テン場 天候:雨〜小雪

五味沢・破間川林道入口490m(8:00)−林道終点580m(8:40)−テン場830m(10:10)

 前夜、車3台は道の駅「いりひろせ」に集合してテントで仮眠する。寝る時は満天の星空だったが、朝起きると曇空で予報(=朝から夕方まで雨)の通り不穏な雲行き。破間川林道入口でテント泊の大ザックを背負い、板を履く。スノーシューのボーダー6人が先行する。一旦滑り下りて破間川を橋で渡り、下黒姫沢右岸に沿う林道に入る頃は雨が本格的になる。林道終点で20mほど降下して下黒姫沢の沢床に立ち、段差や屈曲の少ない沢を登る。所々で深い雪穴の奥に流水が覗く程度で残雪は豊富。前方に尾根ひだが入り込んで来る辺りで沢から左岸尾根に取付く。次第に風当たりを感じる尾根筋に出て間も無く、予定のテン場は風当たりが強そうなので、リーダー提案で一段下の窪み地形にテント2張り設営する。
 予定ではテント設営後に黒姫まで登る予定であったが、全会一致で本日は停滞と決定する。たとえゴアテックス製であっても、メインテナンスの良くない冬用ジャケットではこの雨は防ぐことはできず、下着まで濡らしてしまった参加者もいたようだ。  テント内でお茶を飲んでいると、周囲のブナ林から風音が轟くが、テントはフライが時たま揺れる程度。帰宅後に天気図を見ると、沿海州の低気圧から顕著な寒冷前線が日本海を対馬海峡まで延びている。その前線が正午頃に現地を通過したので、早めに一段下で設営した判断は正解だった。
 昼前(11:30)から宴会モードに入る。持参されたお奨めのアルコールとおつまみ一品が続々と出てきて、顔ぶれからも容易に予想される展開となる。色々な話題で盛り上がる。いわく「愛するの反対は」「愛憎って言うから、憎む?」「無視するです」など、通俗的なものから形而上のテーゼまで(笑)内容は幅が広い。
 午後になるとテントに当たる雨音は小さくなり、外を見ると小雪混じりになって来た。寒気の流入で霧が立ち込める。大きいテント(6人天)に10人が入り、暖房にガスを連続して焚くと何度も酸欠になる。その度に吹流しやベンチレーターを開くのも面倒だし、夕食の炊事で火器2台になる前にフライを取り外す。その前から、テント内の浸水が進み、スプーンでグランドシート上の水をすくい集めては外へ捨てる。手足・尻・背中からじわりと濡れが進む。
 天気予報では夕方には雨・雪が止む筈だったが、そうはならず降り続く。テント内の浸水は進み、夕暮れが迫るにつれて重い気分が支配する。新素材やハイテクの最新装備で身を固めれば通常の雨・雪には余裕で対応できる筈だったが。そんな優れ物には縁の無かった古手の山屋は冬場は炭俵をテントの下に敷き、綿帆布のキスリングザックをぺしゃんこに延ばして敷いて寝たのを思い出す。装備が貧弱な時代には、身体活性(バイタリティー)を高め、タフな(めげない)精神構造で対応していたが、今や時代も変わりそれは言わない。余計な事を言うと難局に追い込まれた姫君らはブレークしかねない。「ま、終わってみればいい経験になりますよ」と、テント内の惨状を笑顔でながめているのが約1名おりました。


3月14日(日) テン場〜破間川源流滑降〜テン場〜五味沢 天候:曇り〜快晴

テン場830m(8:50)−守門〜黒姫稜線1340m(11:10)−稜線ドロップポイント1280m(12:00〜12:30)昼食−(滑降)−破間川源流域1020m(12:40)−(登り返し)−稜線1280m(13:40)―テン場830mテント撤収(14:40〜15:25)−五味沢・破間川林道入口490m(16:15)

 長時間かつ大人数の宴会・炊事・暖房で燃料を消費したが、朝の炊事をぎりぎりでクリヤーする。天候回復の遅れで明け方まで小雪が続いたが、朝食後に外へ出ると雪は止んでいる。まだ山の上部はガスっているが、気圧は上昇傾向で天候は回復プロセスに入った。残っている寒気の尻尾が抜ければガスも晴れるだろう。適度な間隔のブナ林の尾根を登ると、今朝出発した数名の山スキーヤーが追いついて来る。落葉したブナの半数に常緑のヤドリギが寄生しているのが目立つ。枯れそうなブナに寄生するとも、寄生するから枯れるとも、学説は分かれるが、寄生されたブナは更新される。そんな前途を知ってか知らずか、2ヶ月もすればブナ達は健気に今年も新緑を芽吹く。
 樹林帯を抜けて至る所が好スロープになる。クラストした急斜面が時々あって稜線は近い。破間川源流域のドロップポイントは稜線の右手(東)だが、依然ガスの中で迂闊にショートカットで大斜面を横切るのはご法度。リーダーは的確に尾根を直上して、稜線に乗り上げてから東へ振る。雪庇の下を巻き、次の小ピークも水平に巻いてドロップポイントに立つ。急速にガスが晴れ上がって展望が利き、期待の破間川源流域が好斜面で眼下に広がる。
 滑り支度と昼食のうえ、一人ずつ今回お楽しみ第一幕のドロップ。前日の雨でパウダーは初めから望めないが浅い底の上に軽い雪が載り、幅広い雪面で斜度もあって順調に250m差を滑って集結。もう少し下まで滑りたいが時間が押しているので支尾根を登り返す。この支尾根もブナの疎林で滑り良さそうだし、北側の支尾根、黒姫山頂からの尾根など至る所が滑るのに好適。稜線に戻ると更に天候回復していて、浅草岳・毛猛山・未丈ヶ岳・越後駒などの遠望が得られる。実に、天国・地獄はお天気次第、昨夕の惨状では泣きが入りましたっけ。
 さて、まず駆け付け三杯か十杯を第一幕で堪能して、引き続きお楽しみ第二幕は稜線から南面をテン場まで滑る。太陽の直射を受けた雪面は黄砂の汚染も無く真白で、ちょい重めながら十分合格点。ゲストの井西さんも達者な足前でお見事。テン場で積雪を測ると3mを超え(ゾンデ棒全没)、さすがに日本有数の豪雪地帯だ。テントを撤収後、再び重荷を背にして下黒姫沢を滑る。人の腕ほどの太さの若いブナが何本か幹をポッキリ折られている。成木なら耐えられる雪崩にも若木は負けてしまう。動植物・人も含めて存続するには試練が待っている。などと風流を愛でている場合ではない。緩傾斜だがストレートで長い沢の滑りはスピードが上がり、細身の山板では軟雪をコントロールしきれない。何度か転倒してはザックを肩から外して立ち上り、ザックを担ぎ直して再スタートする。
 林道入口から近い浅草山荘が何と休業日とは。小出インターに近い「ゆーパーク薬師」で一浴のうえ食事して、関越道大渋滞のおまけ付きで帰る。

(直井 記)




稜線で


破間川源流へ滑走