5月4日 快晴

双六小屋650……樅沢岳750807……左俣岳2,674m通過916

……千丈乗越12111248……槍ヶ岳山荘1418……飛騨乗越14321449――槍平冬季小屋1521――滝谷避難小屋1545……白出小屋1800……穂高平小屋1847……新穂高温泉1933

 

いよいよ最終日である。しかもドラマティックにラストを飾るのは槍ヶ岳である。

まずは、樅沢岳へのクラストした急斜面をクトーと付けてシール登高した。クライミングサポートを使わずにクトーを雪面に食い込ませるようする。一瞬でも気を緩めると滑落してしまうような急斜面だ。緊張の登高が続いた。宮本は長坂リーダーから、スキーを持ち上げずにもっと雪面を滑らすようにと指摘を受けた。その通りやってみると、だいぶ楽になった。今までの登り方で滑落しなかったのは幸運かもしれない。樅沢岳に登ると、目の前に目指す槍ヶ岳が西鎌尾根を従えて現れた。思わず体が震えた。

 ここから槍ヶ岳の飛騨乗越までは歩行アイゼンを付けてスキーは担ぐことになった。各人歩行アイゼンをきっちり締めて、ザックにくくりつけたスキーをしっかり止めて準備を万全である。樅沢岳の下りは左右が切れ落ちたナイフエッジ。もし転倒して落ちたら、この世にさようならしなければならないだろう。ここではリーダーの指示で各人間隔をあけて慎重に下った。一歩一歩確認しながら無事に降りることができた。千丈乗越までは雪と岩のミックスした尾根歩きだった。アップダウンがあるので、標高はなかなか稼げない。実は千丈乗越は樅沢岳より標高が低いのだ。それでも確実に槍ヶ岳の姿は大きくなっていた。槍ヶ岳は宮本の心を魅了して止まない。どこからでも山を知らない人でもわかる山である。密かに今回参加できなければ槍沢と飛騨沢だけでもいいので行きたい、と思っていた。なぜか胸の高鳴りを抑えることができなかった。

千丈乗越に到着。千丈沢を登って来た単独行者に会う。槍の肩から千丈沢を滑り、標高2,00mまで降りたと話していた。ここまでの登り返しは2時間ほどとのこと。確かに槍の肩から千丈沢方面にシュプールが一本あった。彼のものだろう。

暫しの休憩の後、最後の大槍を目指しての雪渓歩きが始まった。既にバケツが掘ってあるとはいえ、今までにない急斜面でかなり緊張するところだ。体のバランスを崩さないように、一歩一歩確実に雪面を踏みしめていった。稜線とは違って風が弱いことが唯一幸いだ。雪が切れたところで、夏道に合流して、槍の肩まで一気に登った。小槍を従えた大槍が姿を現した。

とうとう…とうとうここまで来た…言葉にならないほどの熱い感動が襲った。今回が初めての大坪さん、鈴木さん、中山さん、阿部さん、そして宮本。既に来たことのある長坂リーダー。各人が素晴らしく充実した気持ちに満たされた。皆で堅い握手をした。このシーンは一生忘れない。感動の余韻に浸るまもなく、すぐさま飛騨乗越に移動した。

最後の飛騨沢の大滑走が待っている。飛騨乗越は日本一高い峠で標高が3,00mある。宮本はこれほど標高が高い場所からの滑走は、未だかつて経験がない。いそいそと滑走モードに切り替えして、ダウンヒル開始。雪はザラ目で程よく緩んでいる。皆ノンストップで2,300m付近まで大滑走を楽しんだ。数少ない山スキー経験でこれだけの距離を一気に滑ってきたのは初めての経験だった。

大斜面の滑走はここで終わって、疎林をトラバースしながら、槍平冬季小屋に到着。付近はテント村になっていた。槍平小屋は避難小屋だけ確認したのみで、すぐ通過した。右俣谷が割れてきているので、樹林帯の雪面を選びながら、だらだらと下る。消化試合と思われていた下りが意外と長くて閉口した。途中頭上遥かかなたに北穂高のドームが見えた。長坂リーダーと中山さんは登攀したことがあるそうだ。滝谷避難小屋の前で渡渉することになった。幸いブーツを濡らさずにすんだ。その後、滝谷避難小屋と白出小屋の中間地点でとうとう雪がなくなり、スキーを担ぐことになった。完全な藪歩きで、スキーやストックが木の枝や引っかかり歩きにくいことこの上もない。そろそろ時間が気なる頃だ。このままだと明るいうちに新穂高温泉にたどり着けないだろう。ヘッドランプを用意した。やっと白出小屋についた。

やれやれ、これからは長い林道歩きか、と思った瞬間、何と林道に雪がついているではないか。これは運がいいと喜んでザックからスキーを下ろした。数十メートル滑って、少し歩いて、また滑っての繰り返しですぐ終わってしまったが気分転換になった。大坪さんと宮本以外は、スニーカーに履き替えた。ゆっくりと新穂高温泉を目指して歩いた。次第に暗くなってきた。中山さんと今回の山行を振り返りながら歩いた。色々あったけど、無事に帰って来ることができてよかったね、と。穂高平小屋の手前からヘッドランプをつけて、遂に…遂に!新穂高温泉にゴールした。無謀と思われた日本オートルートを完走することができた。これで感動のフィナーレ。

ところが、感動に浸るまもなく今晩の宿をこれから探さなくてはならなかった。

新穂高も平湯も当然ながら満員御礼状態。こんな落ちがあったとは…と誰もが宿泊をあきらめかけた。しかし最後の最後、阿部さんの機転で新平湯温泉の民宿「みなみ荘」に宿泊することができた。露天風呂にゆったり浸かり、ささやかながら無事終了に乾杯!

 

55日 晴

完走の喜びをかみしめ、充実感と安堵感に浸りながら、皆笑顔で帰途に着いた。 → 53日へ戻る> <感想編へ進む>

報告 宮本